経営上の需要に応じて、企業は従業員に残業させる必要があり、一部の従業員にとって、残業代もまた欠かせない収入源になっている。だが長時間労働の後、従業員は自分の心身の健康、そして企業の生産力のために、適当な休憩を取らないと労働力を確保することができない。過労になることを防止するため、台湾の労働基準法は、勤務時間や残業時間について共に上限を設けている。
勤務時間に上限を設けているほか、残業手当の計算方法について、労働基準法は割増賃金を設けている。これは経済的な手法によって、使用者が従業員に残業させることを「お得ではない」と感じさせ、「価格で量を抑える」という方法で残業を抑える目的を達成するのである。労働基準法では、残業手当の計算につき、「時間」を単位にしているが、台湾で次々と現れてくる残業手当給付に関する労使紛争において、雇用主と労働者が「時間」でない単位をもって残業代を計算することをよく見かける。
最もよくあるタイプは、次の2種類である。(1)残業代が給料に含まれている。ということは、残業の有無や時間数にかかわらず、一定の金額で賃金を給付する。(2)特定な名目で残業代を取り替えることを約束する。その給付内容は勤務時間だけではなく、「仕事の成果パラメーター」も取り入れている。このような方式は、旅客運送業や貨物輸送業においてよく見かける(例えば乗務手当、運行手当、キロ手当等)。
労使双方が労働基準法に定められた方法で残業代を計算しないのを約束したことについて、このような約束の効力に関しては、今までの司法実務において一致した見解がない。(1)ある見解では、労使双方が約束した給料は、「基本賃金」及び基本賃金を基準に計算された残業代より高ければ、適法と認めた。(2)労働基準法での残業、休暇及び休日出勤の割増賃金に関する規定は全て強制規定であるので、労使双方は守るべきであると認める見解もある。ということは、労使双方が法定方式に従って残業代を計算しない約束は、労働基準法の規定を違反することになり、無効である。上掲の2つの見解は、各級裁判所の異なる判決において現れており、一致した結論がない。
労働事件法は2020年1月1日から施行されて2年が過ぎ、最高裁判所も同法第4条に従い、2つの労働法廷を立ち上げた。その中の1つ(民五法廷)は、前出の問題について、いくつかの判決を下した(最新の判決は2022年4月21日付け111年度台上字第4号民事判決である)。それらの判決では、労働基準法第24条、第39条は強制規定であり、労使双方がその方式で残業代を計算しないと無効になると明確に示した。もう一つの労働法廷(民二法廷)は、この問題につきまだ意見を示していない。
仮に将来最高裁判所は一切「強制規定説」を取るのであれば、下級裁判所が面する問題は、「労使間が約束した残業代の計算方法は無効なので、残業代をどう計算すればいいか」になる。先ず確認したいのが、別途に約束した残業代は他の給与と明確に区別できるか否かである。区別できない場合(例えば残業の有無にかかわらず、一定金額で給料を支給する方式)、当該一定金額の給料は残業代を含めたと認定することが難しい。それから、残業代の給付する基準や残業代の代わりに約束した手当、ボーナス等を別途に約束し、他の給与項目と明確に区別することができれば、別途に約束した残業代を月収から控除し、労働基準法第24条、第39条で定められた基準に従い、雇用主が支払うべきな残業代金額を算出し、労働者が実際に受け取った残業代を控除してから、雇用主の残業代の未払いの有無を確認する。
企業は、業種別の特性に応じ、労働基準法での「時間」を単位に残業代を計算することとは別な方式を発展させた。例えば、バス運転手は残業代を取得するために、スピードを故意に落とせ、乗務時間を延ばす等である。一部の労働者にとって、労働基準法の方式で残業代を計算しない方が、明確で計算しやすいのである(例えば、トラック運転手が運行回数で計算する。回数が多ければ多く儲かる。)。司法実務での「強制規定説」の見解につき、従業員は退職後に、かえって雇用主に残業代の未払いを請求してしまう可能性がある。計算上では、労使双方が合意した残業代の約束を無効に認定しなければならず、その金額をもって労働基準法に従い割増の残業代を算出すれば、給料金額が大幅に上回り不公平な現象になってしまう。将来労資争議の発生若しくは労働主務官庁に裁罰されるリスクを防止するため、企業は、残業代の給付方式が労働基準法に適法か、残業代が他の給与項目と明確に区別できるか等を速やかに検討することをアドバイスする。
(この文章は「名家評論コラム」に掲載。加班費 可以想怎麼給就怎麼給嗎? - 名家評論 - 工商時報 (ctee.com.tw))