今年7月22日に、立法院(国会に相当)が臨時会議の第三読会(最終読会)で「国民裁判官法(以下「本法」という)」を可決した。2023年1月1日から、特定の犯罪事件を除き、法定刑が10年以上の懲役である重罪または故意の犯罪行為により死者を出した事件に対し、法律の専門知識を有しない一般市民を参与させ、職業裁判官とともに審判を進めていく。このような一般市民の刑事審判参与を促す制度は、2017年司法国是会議の司法改革の成果の一つとして挙げられている。
国民裁判官に公正かつ客観的に、審理に専念してもらうため、本法で、国民裁判官(予備の国民裁判官と国民裁判官候補者を含む、以下併せて「国民裁判官」という)の保護の関連規定も定められている。例えば個人情報は保護されるすべきであり、使用者からの不利益を回避しなければならないことが挙げられる。「安心して参与できること。すなわち、公休扱いがとれること、日当と交通費及び必要な費用を支給すること、個人情報及び人身安全を保護すること」が含まれる。これは、本法の七つのポイントの一つである。
国民裁判官の個人情報保護
国民裁判官の個人情報保護について、本法第40条には「特別な規定がある場合を除き、何人も国民裁判官の氏名、連絡先、社会活動及びその他の直接又は間接的な方法により当該個人の情報を開示してはならない(第1項)。国民裁判官の個人情報保護の方法、期間、範囲、処理及び利用に関し、本法は司法院と行政院に授権し、両院ともにこれを定める(第2項)。」と規定している。
上掲個人情報の保護以外に、審理に参与することにより国民裁判官の個人情報を知り得た者に対し、本法でも守秘義務が定められている。本法第19条第4項には、国民裁判官候補者を審査するチームの委員及びその他の参加者は職務執行上知り得た個人情報に対し秘密を保持しなければならないとされている。また、本法第26条第5項には、国民裁判官候補者は選任期日内で知り得た秘密を漏えいしてはならないと定められている。
国民裁判官の個人情報の漏えいに対し、同法第98条の規定に従い、6ヶ月以下の有期懲役、拘留又は8万新台湾ドル以下の罰金を科すことができる。
以上は本法の国民裁判官の個人情報保護に関する部分であり、特定の人員に守秘義務を課したほか、刑罰の規定も設けられている。一見万全な措置であるようだが、守秘義務の範囲や守秘義務違反の認定基準について、本法には定められていない点は議論の余地がある。守秘義務の範囲と認定基準が明確でなければ、国民裁判官が言論自由の限界を超えた発言をしたり、処罰を避けようと自らの発言を控えたりしたため、過度な審査が行われてしまう可能性もある。よって、国民裁判官の権益を守るため設けられている規定は、実務上、その目的に達成できない可能性がある。
労働権益の保護
国民裁判官を務めることは一般市民の義務である。そのため、選任を拒否する事由があり国民裁判官として職務を全うことができない者を除き、国民裁判官に選ばれた者は出廷する義務がある。当該義務は国民裁判官本来の業務に支障をきたす場合には、国民裁判官の被る不利益から守ることを目的とする。そのため、本法第39条には、「国民裁判官と予備の国民裁判官の職務執行期間、もしくは国民裁判官の候補となった者が通知を受け出廷すべき期日は、その者が所属する公的機関や学校、団体、会社は公休扱いとすることを義務付けている。また、国民裁判官を務める、もしくは務めた人に対し、職務上不利な待遇をすることを禁じる。」と規定している。
本法には、公休扱いとすることのみが明文で定められているものの、典型的な労働者でない場合(例えば交替勤務の労働者が休日に国民裁判官に選ばれる場合どう対処するか)、労働者が有給休暇の日に国民裁判官に指定された場合など、労働者の労働法上の権益が国民裁判官の義務と衝突するとき、如何に対処すべきか。こういった状況は、同法第16条第1項第8号でいう「生活や仕事、家庭上の重大な事情で、国民裁判官もしくは予備の国民裁判官として職務を全うするのが明らかに困難である者」に属し、国民裁判官の選任を拒否する理由になり得るのか。これは今後労働部の解釈が求められるであろう。
本法の正式な施行までまだ時間があり、主務官庁には実際に直面する状況に対し予め対応案を作成し、一般市民の参与意向を向上させることが望ましい。それにより、国民の法律感情を反映し、司法に対する理解と信頼を促進させ、国民主権を顕在化させるという本法の目的が達成できるであろう。
この文章は「名家評論コラム」に掲載。
https://view.ctee.com.tw/legal/23032.html