近頃コロナ禍の拡大につれ、マスクは外出する時に必要不可欠なものとなり、しかもファッションの一部となった。市場で様々なデザインのマスクが現れ、一部の販売者が「エルメスオレンジ(Hermès Orange)」、「ティファニーブルー(Tiffany Blue)」、「カルティエレッド(Cartier Red)」などの限定色をもって販売促進を行い、消費者はこういった商品に飛びつくようになった。しかしながら、「エルメス(Hermès)」、「ティファニー(Tiffany)」ないし「カルティエ(Cartier)」、いずれも有名ブランドの名称及び商標であるので、このようなブランド名又は商標を仕様として表示する行為は、商標権侵害に当たるだろうか。最近アメリカ及び台湾の裁判所とも、その点に関する判決を下した。
アメリカ裁判所の観点
アメリカで大規模な倉庫店を営業をするCostco社は、「Tiffany」でないダイヤモンド指輪を展示・販売した時、「Tiffany仕様(Tiffany setting、Tiffany set、Tiffany style)」、又は「Tiffany」で表示しただけである。「Tiffany」という名称に係わる97件アメリカの商標を有する有名宝飾品ブランドTiffany社は、Costco社が「Tiffany」の名称を単体で使用し表示する行為はティファニー社の商標権を侵害したと主張し、ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所に訴えた。
Costco社は、「Tiffany」がブランド名ではなく、単に特定の立て爪デザインのダイヤモンド指輪の仕様として説明しただけであると主張し、更に、自分の売り場において「Tiffany」を商標として使われなく、仕様の説明として使用されただけであるので、商標権侵害に当たらないと弁明した。
ニューヨーク州南部地区連邦地方裁判所は、Tiffany社の勝訴とする第一審の判決を下し、Costco社に約2100万ドルを賠償すると命じた。しかしながら、当該判決は今年(2020)8月17日に、第二審の控訴裁判所に破棄され、原裁判所に差し戻しと命じた。
第二審の控訴裁判所は、消費者にCostco社の当該表示により、そのダイヤモンド指輪をTiffany社製のものと混同・誤認させたうえ、Costco社がによる使用がそのダイヤモンド指輪の仕様を説明するだけであり、「Tiffany」を意図的に商標として使用しなかったことまで認めるかについて、まだ疑問は残っていると指摘した。また、Costco社は大量な証拠を提出し、1800年代から「Tiffany」という言葉が広告、辞書、貿易展とその他の公開文書において、ダイヤモンド指輪の仕様の説明として使われてきたと説明した。Costco社は販売する時に、指輪に「Tiffany」のブランドを実際に表示しておらず、「Tiffany」の水色の包装紙を使っていなく、消費者にCostco社自身の領収書、証明書、その他販売書類も発行した。したがって、一般的な消費者の知識を考慮し、Costco社のダイヤモンド指輪は「Tiffany」社製と混同・誤認させることがなかったため、「Tiffany」という言葉は指輪の仕様を説明しただけにとどまると理解することができる。
したがって、第二審の控訴裁判所は第一審の判決を破棄し、原裁判所に差し戻しを命じた。
台湾裁判所の観点
最近、前述の案例と類似したような状況も台湾に現れた。
X社は「QQBOW」の商標権者であり、Y社は電子商であるショッピー(Shopee)の取引プラットフォームにおいて、「The Superfly Dept. 韓国直輸入102002 QQBOWスタイル ハイネックニットインナー+毛織キャミワンピセット2色」を商品の表題とし、商品の説明においてもハッシュタグを使い、「#韓国直輸入#QQB0W」を表示した。X社は、Y社の行為がその「QQBOW」の商標権を侵害したと主張し、台湾知的財産裁判所に訴訟を提起した。
Y社の答弁は、前述のアメリカCostco社の主張と類似している。すなわち、表題の「QQBOWスタイル」とは商品の仕様又はデザインを説明しただけであり、ハッシュタグを使ったのもホームページが所在する位置を表示し、消費者に探しやすくさせるためであるので、Y社は「QQBOW」を商標として使用していなかった。
去年(2019)と今年(2020)、台湾知的財産裁判所は第一、第二審の判決(108年度民商訴字第12号、109年度民商上字第2号)を下した。判決では、Y社の行為は、その販売していた商品のデザインとX社がフェイスブックファンページで販売しているものと同じことを説明したことであり、ハッシュタグも同じプラットフォームにおいて同じ表題のページにリンクさせただけであり、X社のフェイスブックファンページ等ほかのプラットフォームにはリンクできなかった、したがって、Y社の行為は商標使用に当たらず、商標権の効力が及ばないので、商標権侵害に当たらないと判示した。
上記米国と台湾の判決は今後確定するか通説になるか、まだ未定である。それらの事例では、他人のブランド名称又は商標を仕様として表示することが商標権侵害に当たるか否かは、事例の使用者の具体的な使用方法によると見られる。仮に関連証拠をもって、そのブランド名又は商標を仕様の説明として使われるにとどまることが証明できれば、商標権侵害に当たらないと主張することができるようである。
すなわち、使用者は他人のブランド名称を意図的に強調したのか、その商品自体又は包装は如何に表示されているのか、領収書やビジネス書類の発行者はだれか、当該ブランド又は名称がほかのデザイン等の意味合いはあるか。それらの要素について、裁判所が商標権侵害に当たるかを認定するにあたって考慮するので、使用者は注意した方が良いである。実務上では、一部の使用者はその使用方法に留意するとともに、権利侵害のリスクを回避するため、その提供している商品役務が商標権者と関係がないと具体的に記載する事例がある。
(この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/legal/24187.html )