「工商時報_名家評論コラム」: メタバースの法適用について

2022-02-21

今年全豪オープンテニスの男子シングルス決勝戦は、全世界のテニスファンの情熱をたぎらせた。スペインのレイジング・ブル(猛牛)と呼ばれているラファエル・ナダルは、2セットダウンから驚異の逆転で、ロシアの若き勇者ダニール・メドベージェフを撃破した。もう一つのグランドスラムを達成するだけではなく、男子史上最

作者

作者

Jerry Hung

今年全豪オープンテニスの男子シングルス決勝戦は、全世界のテニスファンの情熱をたぎらせた。スペインのレイジング・ブル(猛牛)と呼ばれているラファエル・ナダルは、2セットダウンから驚異の逆転で、ロシアの若き勇者ダニール・メドベージェフを撃破した。もう一つのグランドスラムを達成するだけではなく、男子史上最多の通算21勝目を挙げた。今年の全豪オープンでは、ファンたちはチケットを買い、会場のメルボルン・パークで試合を観戦するほか、史上最初でメタバースの世界にメインコートを再現し、テニス観戦ができるようになった。世界中のテニスファンは、仮装空間において試合を観戦し、バーチャルイベントに参加し、NFTの記念品も買うことができる。

2021年後半から、メタバースの話をあちこちで耳にする。仮想空間を言い換えたものだ、ゲームにおいて表れた仮想現実(VR)や拡張現実(AR)だ、又は映画の「レディ・プレイヤー1」で描いた仮想と現実が混じっている世界だと言う者もいる。仮にメタバースの最終目的は現実世界を仮想世界に移し込み、現実世界でできることが全てメタバースでもできるようにするのであれば、現実世界で作った法律も、直接にメタバースに落とし込むことができるのか。そうには行かないようである。

 メタバースにおいて車や土地を買い、家を建て、店を立ち上げ商売をすることができたとしても、現実世界で最も基本的な「所有権」の概念は、メタバースでは存在しがたいようである。仮に現実世界でテスラの電気自動車を買えば、その自動車の所有権を有し、自宅の車庫に停めることができる。しかしながら、メタバースにおいてテスラを一台買い、メタバースで気ままに走り回ることができても、VRヘッドセットを外し現実世界に戻れば、そのテスラはまだメタバースにあり、自宅の車庫に停めることができない。メタバースの全てはコンピュータープログラムでできており、メタバースでのテスラもそうである。そのため、メタバースのテスラを購入する際、現実世界のように自動車の所有権を取得することではなく、あるコンピュータープログラムを使用する権利や授権を取得し、メタバースにてそのテスラやそのコンピュータープログラムを使用することを許可するのである。

 メタバースにおいて土地を買うこともできる。ディセントラランド(Decentraland)では、仮想空間内にある「LAND」という土地が243万ドル、サンドボックス(The Sandbox)での仮想土地が430万ドルまで販売された。これらの仮想空間の土地は、全てNFT(非代替性トークン)である。これらの土地のNFTは、土地の所有権証明書に似たものであり、あるメタバースにおいてこの仮想土地を所有することを証明するのである。しかしながら、その仮想土地もコンピュータープログラムによって作り上げられたので、実際取得したのもそのコンピュータープログラムを使用する権利であり、仮想土地の所有権と言えない。

 また、メタバースは一つだけではないかもしれない。仮に自分がいたメタバースAがメタバースBに合併・買収されれば、仮想のNFT土地や仮想のテスラ、仮想の店、仮想商品をメタバースCに持っていくことができるだろうか。持っていくことができなければ、メタバースBに別の費用を支給するよう要求し、メタバースAにおいて所有しているNFT土地やその他の仮想資産を買い取ってもらうことができるだろうか。とはいえ、実際にそれらの資産の所有権を有していないため、自分はどのような権利を主張することができるか。メタバースBはこちらの授権なしでは、それらの仮想資産を運用することができないと主張できるか。こういった問題は、メタバースがより発展していかないと分からない。

 知的財産権もまた重要な議題である。メタバースにおいて店を開き商売をするとき、使用する商品名やデザインが現実世界にある商標権や著作権と似ていれば、やはり権利侵害に当たるおそれがあり、メタバースに発生するからと主張して免責にならない。また、メタバースのアバターが新しい著作や発明を作りだすと、これらの著作や発明は一体「人間」の作品なのか、それとも「AI」の作品なのか。現在世界各国の主流的な意見は、「人間」が作り出したものしか著作権や特許権に保護されないのであり、AIが作り出したものは保護されない。メタバースやAI技術の発展につれて、現行制度下では、知的財産権は重大な挑戦を受けることになる。

 メタバースにて発生する紛争は、現実世界の裁判所において解決することができるか。当然解決できるが、メタバースは国境のない領域であるため、その仮想世界で起こった紛争が一体現実世界のどの国、もしくはどの都市の裁判所で処理するか、又はどの国の法律に基づき解決すべきかは、まず超えなければならない壁である。また、仮想世界にて発生する争議について、どのようにすれば関連証拠・資料を現実世界の裁判官の前に出して弁論するかは、弁護士が頭を悩ませる問題になるだろう。ある日メタバースの紛争は、メタバースにて解決できるようになり、弁護士、裁判官、原告及び被告はVRヘッドセットを装着し、アバターとしてメタバースの裁判所にて訴訟攻防を行うかもしれない。

 メタバースはまだ漠然とした概念であり、それとともに進歩する科学技術が新しい生活体験をもたらし、新しい法的紛争や犯罪手法が現れることにより、現実世界の法制度のあり方について見直しが求められる。

この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/processing/37105.html