EUは2005年に「排出量取引制度」を導入した。この制度は、あらかじめ排出量の上限を決めておき、万が一上限を超えて二酸化炭素を排出した場合、上限に達していない企業から二酸化炭素の排出枠を買い取る(総量削減)仕組みである。この施策により、EUにおいて二酸化炭素の排出にはコストがかかる。2021年5月、EUのカーボンプライシングは、1トンにつき史上最高の55ユーロ(約7,555.9円)になった。
欧州委員会は2050年カーボンニュートラルの実現を向け、並びに2030年に温室効果ガス55%削減(1990年比)目標達成のために、政策パッケージ「Fit for 55」を発表した。EU排出量取引制度を拡大・改革したほか、「炭素国境調整措置(Carbon Border Adjustment Mechanism, CBAM)」に関する規則案は特に注目に値する。
炭素国境調整措置はEUの「国境炭素税」計画の一環であり、すなわち、アルミニウム、鋼鉄やセメント、化学肥料、電力等炭素排出量の多い特定の輸入品に対し、その生産に伴う二酸化炭素排出量を申告し、排出量に応じた「炭素国境調整税」を納付した証明書を提出しなければならない。この措置の目的は、EU内の関連産業を保護すると共に、そういった産業が排出制限の緩やか、若しくは排出コストのない国へ流出し、一層環境に優しくない製品を生産すると言ったカーボンリーケージ(CARBON LEAKAGE)を防止するためでもある。
EUの炭素国境調整税によって、世界中はカーボンリーケージを重要視し始め、炭素の国境調整に向けて動き出した。米国も、日本も自分なりの「炭素国境調整税」を検討している。台湾は輸出指向の国として、輸入してきた商品に炭素国境調整税を徴収することを検討するほか、自国の関連産業が将来国際間の炭素国境調整税に対する競争力を強化させるため、国内のカーボンプライシングメカニズムを整備し、国内産業の脱炭素に向けた取り組みを推進する必要がある。
2021年10月21日、行政院環境保護署は「温室効果ガス減量管理法」の改正を公告した。グローバル的な気候変動及び国際間の脱炭素への取り組みに応じるため、その名称を「気候変動対応法」に変更する予定であり、有識者からの意見を集約した最新版の草案を行政院へ送り出した。この法案は、立法院の今会期において最優先に審査する法案になる。
草案はカーボンプライシングにつき、国内の排出源に対し、炭素に価格を付けることを経済的な誘因としている(第26条)。最初は鋼鉄、石油化学、半導体等排出量の多い産業を徴収する対象としており、毎年直接及び間接に(電力を使用する)排出量が2.5万トン以上の約290軒企業に、炭素排出1トンあたり〇〇元、といったかたちで政府が炭素価格を直接的にコントロールすることである。次の段階では、排出量のより少ない産業を対象に取り入れる。現在環境保護署が見積もった炭素価格は、1トンあたり約100元上下(70~120元)であるが、ある研究機関によれば、台湾の炭素価格の相場は、少なくとも1トンあたり10米ドル(約300元)である。また、国際的な炭素国境調整措置に応じるため、草案では、台湾は炭素強度の高い輸入商品を公告し、そういった商品を輸入した業者に対し、炭素価格(炭素国境調整税)を徴収することができると増訂した(第27条)。
そのため、将来台湾の企業は、国内において続々と炭素価格が取られるほか、輸入することが必要な原料や半製品が公告された炭素強度の高い輸入製品であれば、輸入される時、まず台湾政府に炭素国境調整税が取られる。それに対して、将来炭素強度の高い製品を輸出する場合、海外でも炭素国境調整税が取られる。この3つの点は、気候変動が企業にもたらした運営コスト増加のリスクである。
しかしながが、注意すべきのは、EUのCBAMには但し書きがある。すなわち、輸入する製品がその生産国で炭素価格制度がある場合には、その支払額に応じてEUへの支払いが免除される(CBAM第9条)。台湾の気候変動対応法の草案でも、類似の免除条項を設けている(第27条)。言い換えれば、将来国際的な炭素国境調整税が高い低いのは、輸出国国内のカーボンプライシングのメカニズムの完全性及びその炭素価格の相場によると言えるだろう。台湾の炭素価格のメカニズムと相場が国際社会の取り組みと適合させることは、国内製品が海外輸出に際し、他国の炭素国境調整措置に課金されるか否かのカギになる。
気候変動対応法草案のキーポイントは、2050年までのネットゼロ(二酸化炭素を排出実質ゼロにすること)を本法の目標にしているところである。今回の改正が最も注目を集めているのは、台湾において初めて炭素価格を経済的誘因にし、温室効果ガスの排出を抑制しようとする。その徴収対象から、費用率、計算方法、徴収方法まで、全て中央主務官庁により公告、又は子法を定めるである。政府の気候政策に対応するため、企業は一刻も早く関連条項の動きを把握し、持続可能への移行のリスクを最低限に低減させるべきである。
(この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/tax/38642.html)