「工商時報_名家評論コラム」:モデルナ、ワクチンにめぐる特許訴訟を提訴

2022-09-16

3年前に、多くの人にとって、「mRNA」とは完全に何だか分からないものであった。今になっても、一般の人々はまだそれを正確に理解できていないかもしれないが、「僕が2回か3回接種したワクチンだ」と直感的に言える。

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3年前に、多くの人にとって、「mRNA」とは完全に何だか分からないものであった。今になっても、一般の人々はまだそれを正確に理解できていないかもしれないが、「僕が2回か3回接種したワクチンだ」と直感的に言える。新型コロナウイルスのパンデミックがもたらした多くの変動の1つは、「mRNAワクチン」の大発展を促したことである。

 現在新型コロナウイルスに対抗する2つ大手の「mRNAワクチン」は、モデルナのスパイクバックス(SPIKEVAX)と、ファイザーとビオンテックのコミナティ(COMIRNATY)である。2021年ファイザーの売上は367億米ドルに達し、今(2022)年も320億米ドルになると予測されている。これに対し、モデルナのワクチンの売上は2021年が185億米ドル、今年も210億米ドルになると予測されている。この莫大な市場利益において、特許戦争になるのは当然である。

 2020年10月8日、COVID-19ワクチンの緊急使用許可(EUA)が下される前に、モデルナはパンデミックの間に他社が独自のワクチンを開発するのを支援するため、関連特許権を行使しないことを発表した。また、アフターコロナになっても、COVID-19ワクチンの知的財産権を必要とするメーカーにその使用を許諾するとのことである。

 パンデミックの収束及びワクチンの供給量増加につれて、2022年3月7日モデルナはグローバル公衆衛生戦略及び新たな特許承諾を公表した。COVAX計画の中の92 の低・中所得国に供給するワクチン製造会社に対し、特許権を行使せず、特許権を主張しない戦略を維持する。それ以外の国では、ワクチンの供給は不足していないため、モデルナの知的財産権を尊重するよう要求すると共に、合理的な価格で使用許諾を提供することを承諾した。その目的は、次のパンデミックに備え、新しいワクチンの研究開発に継続的に投入できるためである。

 2022年8月26日、モデルナは米国及びドイツにて、ファイザーとビオンテックに対し同時に特許権侵害訴訟を提起した。モデルナが米マサチューセッツ州の連邦地方裁判所に提出した起訴状によれば、ファイザーとビオンテックは3件の特許を侵害したと主張している。mRNAが不安定で体内で速く分解され、更に体内の免疫システムがmRNAを外来物質とみなし攻撃する等、mRNAワクチンを開発するのに解決しなければならない問題は山ほどある。モデルナの科学家たちは、mRNAのウラシル(Uracil)について科学修飾を行い、mRNAを脂質ナノ粒子の膜に包んまれ、mRNAワクチンのメイン技術を開発し、上掲の問題を解決した。

 2011年3月31日、モデルナは米国政府に臨時特許を出願し、2021年1月26日、正式な特許権は登録された。モデルナはこの技術を運用し、中東呼吸器症候群 (MERS) を引き起こすコロナウイルスのワクチンを作成し、他の2件の特許を取得した。起訴状では、前のMERSワクチンを開発する技術と経験があったからこそ、モデルナはCOVID-19ワクチンを速く開発することができたと指摘された。

 モデルナは、ファイザーとビオンテックのワクチンが元々修飾されていないmRNAを採用する予定だったが、結局モデルナの3件の特許技術を模倣し、モデルナの特許権を侵害したと指摘した。

 ファイザーとビオンテックは、すでに他の訴訟にも直面している。今年7月上旬、独バイオオテクノロジー企業CureVacはにビオンテックを相手取り、特定のmRNA分子のエンジニアリングに関連する同社の特許4件を侵害したとして訴訟を起こした。同年7月の下旬、ファイザーとビオンテックは、米国でCureVacの特許権を侵害していない判決を請求した。したがって、モデルナの提訴に対し、被告側はモデルナの特許権の無効を証明する証拠を提出したり、自分のワクチンコミナティがモデルナの特許範囲に入っていないと抗弁する等、反撃する見通しである。

 また、2020年10月8日、モデルナが発表した声明にも、本案のもう一つの攻防戦の焦点になるかもしれない。2022年3月7日、モデルナは特許承諾を更新し、コミナティの市場からの排除を求めず、2022年3月8日以降の販売に関連する損害賠償だけを求める方針を表明した。被告側は、モデルナが2020年の特許承諾において特許権を行使しないことを明確に示したので、その承諾を信じてmRNAワクチンを開発したと主張するかもしれない。そのため、裁判所は、モデルナが特許承諾を反する訴訟を行うことを許可してはならない。本案は結局誰の勝ちか知らないが、おそらく握手して、和解することになる可能性が高い。

 もう一つのポイントは、特許出願に関するテクニックである。モデルナは、2018年3月21日、mRNAプラットフォームのメイン技術について正式に特許権を出願したが、その前4件の特許の連鎖を利用し、優先日を2011年3月31日に出願した臨時特許に遡らせた。米国の出願の連鎖テクニックを如何に利用し、特許の保護範囲を持続もしくは拡大するか、バイオテクノロジー企業にとって重要な課題でもある。

(この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/tax/44427.html