近時、世界の経済市場が絶え間なく変化しており、インフレーションや利上げ等の重大な変動は、個人や法人を債務弁済不能という絶望の淵へ陥れさせる可能性がある。「消費者債務整理条例」、「破産法」よると、債務者に債務を弁済できない状況がある場合、「消費者債務整理条例」に従い更生や清算の申立、又は「破産法」に従い破産を申し立てることができる。両方ともに債務者の債務整理を支援する手続きである。しかしながら、司法案件の集計によると、許可と棄却の数は相当かけ離れている。
司法院の2021年度の年報によると、「地方裁判所債務解消申立事件の終結状況」の集計は以下の通りである。2012年から2021年まで、更生申立事件は計33,997件、更生が許可された案件は計24,699件であった(許可率72.7%)。清算申し立て事件は計9,995件、清算開始が決定された案件は計7,984件であった(許可率79.9%)。
しかしながら、同じく「地方裁判所債務解消申立事件の終結状況」での同一期間の集計結果は、かなり異なる。破産申立事件は僅か2,013件、破産が宣告された案件も287件しかなかった(許可率14.3%)。両方とも債務整理手続きであり、債務者が債務整理手続きを通して人生をやり直すことは期待されているのに、なぜ破産事件の案件数も許可率も、更生や清算事件より大幅に下回るのか。
破産を申し立てたこれらの個人や法人が破産手続きにおいて、裁判所に棄却され原因は一体何でしょう。台湾の破産手続きがなぜこれほど難しいかを探るため、裁判所に破産申立を棄却された理由を見ていただきたい。
〈破産法〉で定められている破産宣告の要件は、第57条でいう「債務者が債務を弁済できない」であるものの、司法院の古い解釈により、他の要件を付け加えた。司法院25年院字第1505号解釈によると、「裁判所が破産の申立につき、職権をもって必要な調査をし、残せる財産ないことが確認されれば、破産しようとする財団は成り立たないため、破産手続きに従いその債務を整理することができない。」としている。したがって、困った債務者が破産手続きを通し債務を整理しようとすれば、「残せる財産がない」又は「財産がゼロになる」であってはいけない。
最高裁判所86年度台抗字第479号民事決定では、更に「仮に債務者には確かに財団を成立させる財産が全くない、又は債務者の財産が破産しようとする財団の費用及び財団の債務を弁済することができなく、破産手続きに従いその債務を整理することができなければ、破産を宣告する実益のないことをもって、申立を棄却することができる」と判示している。その後の債務者による申立は、財産の全くないことが許されないだけではなく、残りの財産が破産しようとする財団の費用を返済できなければ、「破産を宣告する実益がない」ため、裁判所に棄却されるのである。
その後、裁判所が破産事件を審理するとき、債務者が債務を弁済することができるか否かを考慮するほか、「破産を宣告する実益の有無」を破産を宣告する要件とし始めている。債務者が破産を宣告されるとき残った財産の金額も、裁判所が「破産を宣告する実益」を調査・斟酌するのに重要な根拠になる。
最高裁判所98年度第四回民事法廷会議第7号提案の決議は、更にその壁を高くした。すなわち、「債務者の資産が税金等の優先債権を弁済できなければ、他の債権者に弁済する可能性は尚更ない。破産宣告すれば、財団費用を優先的に支払わなければならず、破産財団の財産が一層減少し、優先債権者、即ち税務機関の債権が配当減少若しくは配当不能、その他の債権者は破産手続きにおいて尚更配当される可能性がなく、明らかに破産制度の趣旨と合致しない。」
直近の裁判所決定(台北地方裁判所107(2018)年度破字第10号)では、「破産宣告の申立事件につき、破産者の財産が別除権のある債権及び財団費用を控除し、まだ債権者に配当できる金額が残った場合は、破産を宣告する実益がある」と判示している。したがって、債務者の財務が困難になり、破産手続きにより債務を整理しようとすれば、「破産を宣告する実益」の定義は、財産がなくてはならないから、財団費用を支払える、税金等優先債権と財団費用を支払えるまで、そして直近になって、別除権を控除した後、普通債権者に配当できる残り金額がなければならなくなった。
とはいえ、債務者の財産が別除権のある債権より多ければ、破産する必要もないかもしれない。裁判所が破産宣告のハードルを次第に上げていくことから、台湾の破産制度を速やかに振り返り、修正する必要があると思われる。
実は、最高裁判所96年度台抗字第442号民事決定では、次のように判示したことがある。「破産制度は、債権者が平等に弁済を受け、債務者の経済を更生させる働きがある。破産法第112条に従えば、優先権のある債権は他の債権より先に弁済を受けるだけである。そのため、裁判所は税金徴収法第6条第1項をもって税金の徴収を普通債権より優先させ、債務者が延滞した税金が他の債権者への弁済を影響することによって、破産を宣告する実益がないと言えない。」
裁判所が破産事件を審理するとき、往々にして債務者の経済を更生させる破産法の機能を無視し、法解釈をするとともに、破産法にない要件を付け加え、拡張解釈をしつつある。「破産を宣告する実益がない」というのは、氷山の一角に過ぎない。「消費者債務整理条例」を適用し更生や清算できない債務者たちにとって、裁判所が作り上げた高い壁は、このような個人や法人が債務整理、経済更生できなかった原因の1つであるかもしれない。その結果、個人が窮地に追い込まれ、企業もゾンビ企業になる。法制度を検討するほか、裁判所が破産事件を審理する時、債務者が面している厳しい状況を一段と重要視すべきである。
この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://view.ctee.com.tw/tax/45254.html