今年に入って新型コロナのパンデミックが発生し、世界中のビジネス活動がその影響を受けて急に行き詰った。もともと経済環境や消費パターンの変化に影響されていた企業は、更なる不運に見舞われることになった。パンデミックの収束とビジネス活動の回復は待ち遠しく、自己破産や事業再生に直面する企業が増えつつある。
新聞記事によれば、今年5月までに、米国の裁判所に破産を申立た企業の数は、2009年のサブプライム住宅ローン危機以来の新記録を打ち立てた。その中には、創業百年を誇る有名な百貨店JCペニー(JC PENNY)、ファッションブランドJ.クルー(J. CREW)及びレンタカー会社大手ハーツ(Hertz)も含まれており、また英国では、有名な女性下着ブランド「ヴィクトリアズシークレット(Victoria's Secret)」も6月に自己破産の申立てを行った。
輝かしい歴史を持つドイツのサッカークラブFCカイザースラウテルン(FC Kaiserslautern)も、同じく6月に自己破産の申立てを行った。日本の研究機構は、今年末までにで1万社を超える日本企業が倒産に直面すると推測している。世界的に広がるパンデミックが、さまざまな業種のビジネス活動に影響している中、政府は積極的な救済措置を取っているにもかかわらず、債務を弁済できない企業は破産又は再生手続きを選択するしかなくいかにこの経営難を乗り越えるかが期待されている。
世界的に広がるパンデミックの影響により世界中の企業が経営難に陥る状況で、最も注目に値するのは、破産や再生手続きを申立てたとき、制度上の保護を求め、制度上の手続きにより、企業が債務を公平に処理できるよう、活路を見出し、再建を図ることができる点である。米国を例にすれば、連邦破産法第7章の清算型の倒産処理手続(Liquidation)及び、第11章の再建型の企業倒産処理(Reorganization)のいずれか一つを申請しても連邦破産法第362条に従って自己破産を申立れば、「自動中止(Automatic Stay)」という法律効果が発生し、債権者は債務者に対し取り立て行為を自動的に中止されることとなる。日本の民事再生手続きや会社再生手続きにおいては、申立をすれば、裁判所から弁済禁止の保全処分が出されると、債権者は債務者からの弁済を受け取ることができなくなる。こういった制度上の保護を通じ、経営難に陥った企業は、公平かつ公開ですべての債務に正面から向き合うことができ、すべての債権者による早い者勝ちの競争に陥ることは避けられる。
それに対し、台湾の企業は似たような経営難に陥っても、制度上の破産手続きをもって処理されることは稀である。台湾の司法統計によれば、地方裁判所が取り扱った破産案件は、2007年に1,044件、2008年に805件。これらは破産申立のピークであり、その後の10年は毎年200件強にとどまり、2019年には205件しかなかった。また裁判所による破産宣告の案件数から見ると、申立数が最高だった2007年でも64件しかなく、その後の10年は毎年20から30件ほどで推移しており、2019年は25件しか宣告されていない。上記の統計数から見ると、裁判所による破産案件は極めて少なく、裁判官を説得し、破産手続きに進むことは難しく、これは台湾の企業が破産手続きを選択し難くしている原因の一つかもしれない。
また破産宣告前の調査手続きにかかる期間は、破産法第63条で定められている「7日」のような楽観的なものではなく、実務上ではほとんどが半年以上の調査手続き期間を経てから決定が出されることになる。破産法第72条では、「破産を宣告する前に、裁判所は職権により必要な保全処分を命じることができる」と規定されているが、実務上では破産を宣告する前に如何なる保全処分をするか決定する裁判所はほとんどない。制度においても、米国の連邦破産法のような「自動中止」の制度もないため、台湾の企業が破産を申立てをすれば、債権者たちはハゲタカのように動き出し、争いながら企業に残された財産をむさぼるのである。訴訟を通しでも、直接工場や会社へ行き価値ある設備を運び出すことになるので、債務弁済は早い者勝ちの競争になってしまい、すべての債権者を公平に保障することはできない。
裁判所の手続き上の問題のほか、企業の経営者が経営失敗を受け入れられない心理的な原因もある。それと同時に、企業の経営者は債務の連帯保証人でもあるため、裁判所の手続きをもって破産や再生を申立て、手続きを完了し企業の責任を果たしたとしても、企業の経営者として連帯保証する債務は免れない。企業が再建できたとしても、経営者はまだ谷の底にいるため、経営者が破産や再生手続きを選択する意向は低い。
現行の破産法は何回かの改正を経たが、制度は大きく変わることはなく、明らかに歴史的産物となっており、時代とかけ離れている。経営難に陥った企業に手続き上の保護を提供できない上に、債権者が公平的に弁済される権利を保障することもできない。ここ10年で、何回かの検討を経て、2016年に「債務整理法」という形で今までの制度上の問題を変える機会はあったが、結局立法院(日本の国会に相当)の審議に入ることはできなかった。
パンデミックが猛威を振る中、台湾のホテル業界、観光業界、小売業全体が全部窮地に立たされている。時代遅れの制度のせいで、台湾の経営者らは破産や再生の手続により、経営難を乗り越えることは選択したくないのである。企業は一体どのように制度を通して、うまく解決するか、それとも再生するのか、これは行政、立法、司法という三つの側面から改めて検討するべき課題である。
この文章は「名家評論コラム」に登載されたものである。
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