近年は、経営権争いをめぐる事件が次から次へと発生した。例えば、定期的に話題になる彰化銀行董事の選任の戦い、Dリンクと台湾鋼鉄グループとの経営権紛争、東元電機と宝佳グループとの経営権防衛戦、また近いところでは宝佳グループが東元電機、遠東グループと風力発電の大手である永冠グループの経営権取得をターゲットにした事件など、いずれも市場の高い関心が集まっている事件である。
上場や店頭企業の株主に対し、経営権争いは会社に変わるチャンスを与えたため、ある程度の善意のある競争に属するが、その手続の公平さを如何に確保するのかがポイントとなる。ルールを確実に守らなければ、市場派は積極的に戦略的に提携を進めることになり、経営陣も一日の長によって実権を固め、コーポレートガバナンスに損害を与えることになってしまう。また法的救済方法で緊急事態を解決できなかった場合、現行の会社法で紛争を防止又は対応できるのかは、直面している課題である。
経営陣が争議的手段で経営支配権を守ることに対し、2018年11月1日から施行された改正会社法では、董事の消極資格に関する規制を一層強化したが、その消極要件として、仮に犯罪行為に該当しても、有罪判決確定に達する必要があるため、適用上は厳格である。また、改正会社法において包括条項を設けておらず、旧法に従い例示列挙の方式を取ったため、取りこぼしが多いおそれがある。その点について、学界では、董事は会社法第200条における厳重な職務怠慢という事由により裁判で解任され、又は主務官庁の命令に何回も違反し、資料提供や関連登記を拒否した場合も、会社管理に適しない事由に当たる。しかし、現行法において上記の董事の消極資格に含まれず適用できないため、明らかに適任でない董事を退任させないことが指摘している。
また、裏で会社運営をコントロールする実質上の董事について、上記の董事の消極資格の規定に違反した場合、現行法において、その董事による会社に対する事務管理を完全に禁止することができず、規範を回避する可能性がある。また、上記の董事の消極資格の規定は、当然解任されるべき董事に会社と主務官庁へ通報する義務を課していないため、実務上では、当該董事が解任された後、会社が法に従い変更登記をしていなかったため、会社の董事は記録と実際が一致せず、投資家及び債権者の権益を害することがよく見られる。もっとも重要なのは、董事に消極資格の事由が発生し当然解任された場合、実質上会社の董事になってはならないが、その董事が継続的に違法就任した場合、現行法によれば、董事と同じ責任を負うこととなるため、抑止効果はない。もしさらに違反者にもっと重い行政又は刑事責任を課すことができれば、主務官庁や裁判所にとって、不法抑止及びケースごとに正義の実現に利用できる手段となろう。
董事を退任させた法規範はまだ完全でないことに鑑み、2016年に産官学連携で立ち上げた「会社法全般的改正委員会」は、イギリス法系国家における「董事退任制度」を重要な改正ポイントの一つに挙げている。台湾会社法において董事を退任させる制度がなく、消極資格を有する者が就任した場合、会社との委任関係が存在しなくなるだけであり、他の不利益の結果にならないため、立法目的を達成できるか否かは、議論の余地がある。それゆえ、委員会は、イギリスにおける「会社董事退任法」を参考にし、会社の起業、設立、経営、清算又は破産管財人を務めた時に関わる犯罪行為、もしくは会社法又は会社登記関連書類の申告義務に繰り返し違反するなどが董事の退任事由に含まれており、不正を防止するため、違法に董事に就任したことを盛り込み、台湾においての登記制度の実行を促すと提案した。
ただし、仮にイギリス法の退任制度は現行制度との差が大きい場合、委員会は、以下の通り現行制度の改善策を提案した。つまり、取りこぼしを避けるため、「工商法令違反」という包括条項を盛り込むこと、また適任でない者による会社管理を防止する立法目的を達するため、違法で就任した者に刑事責任を課すこと、董事の定義に実質的な董事が含まれることなど対応策が取れる。残念なのは、上記の改正アドバイスは結果的に立法機関に受け入られず、当時の会社法改正の重大な遺憾事となった。
上場や店頭企業の経営権争いが度々争議を引き起こすことは、台湾法制の対応・処理メカニズムの不足を露呈している。主務官庁は如何に行政権と司法権の範囲を厳守しながら、同時に迅速かつ有効な権利救済を両立させるかは、主務官庁の知恵を試すだけではなく、改めて会社に関連する法規範の密度をチェックする必要性がある。学界では、会社の董事の解任問題を徹底的に解決するならば、上記の董事退任制度を会社法に盛り込み、退任事由に該当した董事は一定期間内は会社の責任者を務めることができなくなり、また債権者と投資家の権益を確保するため、適任でない董事に民事及び刑事責任を課し、会社経営から離脱させ、それにより会社の役員のコンプライアンス意識を強化させることができると叫ばれている。それは類似の争議が再びに起こることを避けるための可能な解決策であろう。
この文章は「名家評論コラム」に掲載 https://view.ctee.com.tw/business/21959.html