「工商時報_名家評論コラム」: 裁判所の労働調停を恐れずに

2022-03-25

労働事件の両当事者間(使用者と労働者)において、経済状況の格差が存在しているため、長引く裁判期間を負担できる労力や時間、費用がなく、労働者の生活の基盤に直接の影響を及ぼすものである。そのため、一般の民事紛争事件に比し、特に迅速な解決が望まれる。 労働事件法は、2020年1月1日から施行されて2年間

作者

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労働事件の両当事者間(使用者と労働者)において、経済状況の格差が存在しているため、長引く裁判期間を負担できる労力や時間、費用がなく、労働者の生活の基盤に直接の影響を及ぼすものである。そのため、一般の民事紛争事件に比し、特に迅速な解決が望まれる。
 労働事件法は、2020年1月1日から施行されて2年間が過ぎた。「労働調解(訳注:調停)委員会 」による「労働調解手続き」は、当事者の労使争議を処理することに役立つのがこの法律の一番の特色である。労働調解委員会は、労働法廷の裁判官(1人)、労働事件を処理する長年の経験を有する調解委員(2人)によって構成されている裁判官でない調解委員が裁判官と共に労働調解手続きを行うことは、近時の司法改革の流れと同じく、国民のより積極的な司法参加の実現をはかることを目的としている。。
 英語のことわざでは、「A bad compromise is better than a good lawsuit(分の悪い妥協をして多少の損をしても勝訴することよりマシだ)」と言われている。調停や和解に際し、妥協した内容が自分にとって相当な損をするに見えるかもしれないが、例え和解を拒否し和解案より優れている勝訴の結果を手に入れたとしても、勝訴を得るために費やした時間と費用、精力等手続き上の不利益を総合的に斟酌すると、和解は勝訴判決よりマシかもしれない。
 この2年間の地方裁判所の「労働調解」統計資料を見れば、2020年和解成立の比率は52.64%、2021年は小幅低下したが、まだ48.65%ある。また、「労働訴訟」事件の解決状況を分析すると、2020年と2021年はそれぞれ26.27%、24.21%の事件が和解や調停の方式で紛争を解決した。言い換えれば、裁判所において処理された労使紛争事件の過半数は、当事者間の合意により解決されたのである。紛争を速く解決する必要のある労使双方に対し、この紛争解決メカニズムは非常に魅力的である。
 裁判所における労働調解手続きと、地方自治体の労働局(又は労資争議調停委託団体)の労使争議調停と比べると、一番大きな違いは、裁判所における労働調解手続きには調解委員のほか、裁判官も参加することである。そして調解(調停)は「談合」であるという間違った認識を改めた方がよい。調解(調停)は、不公正な話合いや脅しとすかし等で、他人に権利を放棄させる手続きではない。労働調解手続きとは、労資に関する専門知識を有する調解委員を通し、労働生活分野の専門知識及び職業経験を裁判所に持ち込み、裁判官と共に双方当事者の真意を汲み取り、潜在的な利益を掘り出したり、異なる調停案を作成したりすることである。この過程において、裁判官は双方の陳述を聞き、争点を整理し、証拠を調査すると同時に、適当な時に訴訟の可能な結果を説明することにより、当事者に調停案の受け入れの諾否を判断させる。
 当該案件の調停が不成立になり審判に移行しても、同じ裁判官が引き続き審理するので、労働調解手続きにおいて取得した証拠を訴訟の審理に継続的に引用することはできる。したがって、労働調解手続きは訴訟の準備手続きに相当しており、その呼び方が「調解(調停)」であるからと言って、金額について単純な話合いではない。
 行政機関の労使争議調停手続きと比べれば、裁判所の労働調解手続きは上掲の特殊性がある。労働者(多くの労使紛争において能動的な方)は、行政機関での調停が不成立であるから、裁判所においても調解(調停)が不成立になると思ってしまうため、労働調解を申し立てずに直接に訴訟を提起することは、かえって紛争を速く解決するチャンスを失うかもしれない。労働調解手続きは「審理・調停並行」の方式を取っているので、多くの案件において、労働調解委員会は審理しながら調停するのである。調停が不成立になっても、労働調解手続きを行ったため、裁判官は案件の事実、証拠資料に対しある程度把握しているので、その後の訴訟手続きの迅速化にも役立つのである。調停の不成立が手続き上の無駄にはならないので、裁判所での労働調解を恐れないでほしい。
 一方、企業(多くの労資紛争において受動的な方)に対し、裁判所から送れられてきた労働調解通知書を受け取ることは、「調解(調停)」手続きと勘違いして軽々に考えてはいけない。労働基準法第23条第2項、第30条第5、6項に従い、使用者は、労働者の賃金台帳及び出勤記録を十分に備える義務を負っている。また、労働事件法第35条に従い、使用者は上掲資料を提出することが義務付けられているためである。
 企業は答弁方向を積極的に研究し、裁判所が要求した関連資料を十分に備えるべきである。「失権効」の不利益を防止するほか、労働調解手続きの非公開審理の原則又は守秘義務条項、免責条項を通し、企業の経営管理の需要を満たすほか、一労永逸で紛争を解決することができる。

この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://www.fblaw.com.tw/tw/research/media?dbid=6354805492