2023年9月22日、屏東にある明揚工場が火事により重大な死傷事故となった。マスコミの報道によれば、工場内には管制量の30倍を超えた消防管制物ペルオキシドが置かれていたことが明らかになった。しかしながら、2021年明揚社の企業社会責任報告書(CSR)では、自社がISO環境保護管理と職業健康安全管理の認証を受けたことを開示していたため、各界から疑問の声が上がった。上場・店頭公開企業が持続可能な発展に関する実質的な行動を実践しているか否か、情報開示には不当にグリーンウォッシュしていないか、再び波紋を呼んでいる。
2023年第3四半期までには、持続可能性報告書(サステナビリティレポート)を申告した企業は864社にのぼり、申告した比率は上場企業と店頭公開企業総数の64%と30%をそれぞれ占めている。金管会の「上場・店頭公開企業持続可能な発展に関する行動計画」(2023.3)によれば、2025年から全ての上場・店頭公開企業は持続可能性報告書を作成しなければならない。
持続可能性報告書の内容に虚偽不実があり、投資者の意思決定の判断を外れらせれば、証券詐欺の法的責任を負う可能性がある。しかしながら、持続可能性報告書の作成や申告の根拠は〈上場・店頭公開企業持続可能性報告書作業弁法〉であり、それが証券取引法に関連する法的根拠ではなく金融商品取引所とタイペイエクスチェンジの社内規定に過ぎないことを考慮すれば、持続可能性報告書が「証券取引法により申告、若しくは公告された社内業務書類」であるか否か、不実を開示している重大なグリーンウォッシュがあれば、証券取引法20条2項、20条の1及び171条により会社と取締役等に関連民事と刑事責任を負わせることができるかについて、紛争になる可能性がある。
■年次報告書に持続可能性に関する不実情報があれば、民事賠償責任も
それに比べて、〈株主総会年次報告書作成準則〉の法的根拠は証券取引法36条4項であり、法の適用には疑問はない。会社の年次報告書に開示されている持続可能性に関する情報に重大な虚偽不実があれば、投資者に対して、証券取引法でいう「財務業務書類」不実の民事賠償責任を負う可能性はある。
証券詐欺のほか、グリーンウォッシュの法的責任につき、台湾の司法実務では、不動産売買で「緑の建築」を宣伝する広告内容を契約の一部とした売り手がグリーン化の不実により給付瑕疵となり、民事契約責任が認定された証拠になった前例がある(最高裁112年度台上字第488号民事判決)。また、裁判所も会社の給与手当(新市簡易法廷107年新労小字第14号民意判決)又は雇用関係の存在(台湾士林地方裁判所105年訴字第1629号民事判決)を判断する際、企業CSRの記載を認定する根拠としている。
グリーンウォッシュにかかわった国際的な事例を次に挙げる。2023年2月、シェル社(Shell)の年次報告書には再生可能エネルギーへの総投資額を水増しした疑いがあると、NGO組織グローバル・ウィットネス(Global Witness)が米国証券取引委員会(SEC)に告発した。2021年8月、オーストラリア・コモンウェルス銀行(CBA)の株主たちが、天然ガス投資計画に関する社内書類の閲覧をオーストラリア連邦裁判所に申請し、CBAのESG投資政策がパリ協定を守ったか否かを確認した。2022年、チキータ(Chiquita)バナナに「CO2 Neutral(カーボンニュートラル、気候中立)」と書いてあるシールは、オランダの広告審査機関(RCC)により「誤解させる広告」であると認定された。
国内外の事例から分かるように、グリーン化情報やESGを開示する方式は年次報告書から持続可能性報告書、金融商品(証券、基金)の発行目論見書、企業のその他の法定申告書類及び商品広告や宣伝物など多岐にわたり、それぞれ異なる法規制と法的責任にかかわっている。一般的な民事契約責任から証券詐欺に関連する民事・刑事責任、会社法のコーポレートガバナンス及び株主閲覧権、公平取引法や消費者保護法等の法域まで、複雑なリーガルリスクが潜んでいる可能性がある。
■専門的な第三者機関、
企業のESGリスク評価に協力できる
グリーンに関する持続可能性情報に虚偽不実があり、投資者や消費者を誤解させ利益を獲得しようとすれば、基本的に企業は関連法律責任を負わなければならない。リーガルリスク意識を欠如していれば、知らないうちに法に触れたり、ややもすればとがめられたり、「グリーンハッシング(greenhushing)」という現象が生じる。このように企業が責任を免れることを求め、情報や気候問題に関する承諾を保守的に開示すれば、かえって持続可能性の開示システムの利点を損ない、グリーンビジネスチャンスを見逃してしまう。
弁護士は企業に協力し、コーポレートガバナンス及び法令遵守に関する業務を行っており、立法政策や法適用、司法実務に詳しい専門家である。主務官庁がESGに関する規範や準則を評価・改正する際、サステナビリティ指標の検証やサステナビリティの確信などの専門的な第三者機関として弁護士を取り入れることをアドバイスする。企業は、ESGに関連することのリーガルリスクを予め評価し、弁護士による専門的な法務アドバイスを通してESGのリーガルリスクをよく把握し、持続可能な発展目標を達成させる。
(この文章は「名家評論コラム」に掲載。https://www.ctee.com.tw/news/20240215700091-431304)