最高裁判所が2018 年 08 月 29 日に作成した最高裁判所106年(2017年)度台上字第81号民事判決は次のように述べている:「懲罰的賠償金は本来、制裁の性質に属する。当該文化創意商品管理規定は係争契約第15条6 項に含まれるとは明示されておらず、係争契約の付属文書ともされていない。被上告人が、双方の間において当時法規命令の効力がなく、被上告人がその職権に基づき法律を執行し制定した文化創意商品管理規定を契約の一部となすことに合意したことを証明し、あるいは上告人が当該懲罰的賠償金に同意していたことを証明したる場合を除く、外部に法規範効力を具えるに限らない職権命令あるいは行政規則があったからにより、ただちに双方に契約の一部となす旨の合意の意思表示があったとはみなすことができない」 。
本案は著作権授権契約にかかわるものである。被授権人が授権期間終了後も引き続き著作物を利用していれば契約違反になる。本件の契約においては、契約に明示されていない事項は、政府調達法(中国語:政府採購法)および民法などの関連法令による (注1)とされている。本案の場合、関連法令とされた「故宮文化創意商品管理規定」の中に、懲罰的賠償金の規定 (注2)がある。これにより、契約違反した被授権人は、当該「故宮文化創意商品管理規定」の懲罰的賠償金規範に基づいて、懲罰的違約金を支払わなければならないのかが争点となった。
この争点について、第一審から第三審の各裁判所はまったく異なる見解が示されていた。第一審裁判所(台湾士林地方裁判所2013年度智字第9号民事判決)は次のように判断した:懲罰的賠償金の制定は、民法特別法の制定に等しい。相当に明確な立法理由がない限り、主務官庁がかかる民法特別法制定の権限を有するように任意に拡張解釈することができない。「故宮文化創意商品管理規定」の懲罰的賠償金の規定は、母法(根拠となっている法律)を逸脱しており、無効の規定である。よって被授権人はこれを支払う必要はない。
第二審裁判所(知的財産裁判所2014年度民著上字第21号民事判決)は概ね次のように判断した:「故宮文化創意商品管理規定」は法規命令であり、係争契約にいう関連法令に属し、契約の一部となっている。よって授権人は被授権人に懲罰性違約金の支払いを請求することができる。
また最高裁判所は概ね次のように判断した:懲罰的違約金の性質は契約違反に対する制裁であり、明確な合意を必要とする。係争契約締結時、当該法規命令は発効しておらず、果たして遡及効力があるかどうか疑問がある。かつ当該懲罰的違約金の根拠となる法規命令は契約条項中に明示されておらず、契約の付属文書ともなっていない。当事者間で当該法令を契約の一部となす合意があったこと、あるいは当該懲罰的違約金について同意があったことを証明できない限り、外部の法規範効力を具えた職権命令あるいは行政規則があったとしても、直接に契約の一部となす双方の合意の意思表示があったとはみなし難い。
上記のように、契約条項中に未規定の事項については関連法令により処理するような約定があるとしても、関連法令をもって懲罰的違約金の根拠となすと、多くの争議が生じる可能性がある。例えば、第一審裁判所は、懲罰性賠償金規定は母法の範囲を逸脱する可能性と指摘している。最高裁判所は、契約締結時点は法令の発効時点より前、。また懲罰的違約金の制裁性質により、契約当事者間に合意があったかどうかの認定はより高いハードルが要求される指摘もある。双方が関連法令中の懲罰的違約金の規定について合意したことを証明できない限り、かかる規定をそのまま契約の一部となすことはできないということである。
このように最高裁判所は、懲罰的違約金には明確な合意が必要だとしている。権利者が懲罰的違約金の効果を求めるなら、契約において直接明確に約定しておくことにより、双方が懲罰的違約金について明確に合意があることを証明することができる。関連法令をもって懲罰的違約金の根拠とする場合、契約の一部を構成するかどうかの争議をも避けることができる。
*注1本案係争契約第15条6 項は次のように約定している:本契約に記載されていない事項は、政府調達法および民法などの関連法令に従う。
*注2「故宮文化創意商品管理規定」第12条は次のように規定している:「申請人が当院に申請しないまま、あるいは当院の同意を得ないまま、無断で当院所蔵品の画像を使用した場合、当院は法律に基づいて損害賠償を請求するほか、申請人にロイヤリティの10倍あるいは摘発商品総価格50倍の賠償金を請求することができるものとする」。