台湾におけるパテントリンケージ制度(patent linkage)は、去年(2019年)8月20日から施行され、すでに1年経った。現在実務上では、多くの医薬品の特許権者はその制度に基づき、特許権侵害訴訟を提起した。しかしながら、パテントリンケージ制度は、特許権侵害の戦場をジェネリック医薬品(generic drug)の承認申請段階に繰り上げ、すなわち、ジェネリック医薬品メーカーは承認申請を提出するにあたって、登録された先発医薬品の特許権には無効事由があり、又はジェネリック医薬品が権利侵害していないと主張する場合、医薬品の特許権者に通知しなければならず、特許権者はその訴訟を提起するか否かを決める。ただし、その際ジェネリック医薬品がまだ店頭に出回っておらず、特許権者は関連医薬品を取得し、特許の照合・分析を行うことができないので、権利侵害に関する証拠収集につきある程度の困難に直面していると考えられる。
その点につき、知的財産裁判所109年度民声字第6号民事決定は、特許権者に対しある解決策を提供した。その決定において、特許権者は裁判所に、ジェネリック医薬品メーカーへ行き、ジェネリック医薬品、添付文書(package insert)、及びその他の法に従い記録・保存すべき文書(製品の最終的な仕様、バッチ製造記録、分析証明書、調合及び取扱説明書)等証拠を保全するようと申立て、裁判所はその証拠保全の申立を一部認めた。その概要は以下である。
1、 まず、ジェネリック医薬品の承認申請は、見本なしで書面をもって審査できるので、裁判所は、ジェネリック医薬品メーカーが権利侵害の責任を免れるため、訴訟開始後に薬品を隠ぺいし又は変更する可能性があるので、ジェネリック医薬品を保全する必要性があると認めた。
2、 また、添付文書とは、ジェネリック医薬品の承認申請に提出すべき書類である。裁判所は、ジェネリック医薬品メーカーが提出した添付文書と先発医薬品の添付文書と比べ、ジェネリック医薬品の添付文書の内容は極めて簡略であると見られたので、ジェネリック医薬品メーカーが意図的に薬品の成分情報を隠ぺいしたと判断し、添付文書を保全する必要性があると認めた。
3、 法に従い記録・保存すべき文書について、裁判所は、商品の最終的な仕様、バッチの製造記録、分析証明書は全て承認申請をする際に添付すべき書類であり、本案訴訟において裁判所へ証拠調査を申立てれば取得できるので、本件において保全する必要性がないと判示した(同じ見解は、知財裁判所109年度民声字第15号民事決定にも見られる)。また、調合及び取扱説明書について、ジェネリック医薬品を製造する時に必要な営業秘密の書類であり、ジェネリック医薬品メーカーが故意に滅失する場合、自分の権益を損害するので、証拠隠ぺい又は滅失の状況は考え難しい。したがって、その部分には証拠保全の必要性があると認められない。
上記知的財産裁判所の決定によれば、特許権者は、証拠保全又は証拠調査等手段を通し、関連証拠を取得することができる。ただし、医薬品の承認申請に関する資料は、ジェネリック医薬品メーカーの営業秘密情報にかかわるので、訴訟手続きにおいてそのジェネリック医薬品メーカーも特許権者に対し、情報開示禁止又は秘密保持命令の発令を申立てることができる。その点につき、知的財裁判所109年度民声字第32、34号民事決定では、医薬品の承認申請の資料は多く、訴訟の攻防に必要な情報にかかわるので、双方が充分に弁論でき、また特許権者の弁論権に影響しないため、情報開示禁止の申立を認めなかった。ただし、秘密保持命令について、その証拠は営業秘密にかかわり、訴訟以外の目的に用いられれば、ジェネリック医薬品メーカーの事業活動を妨害することになるので、特許権者の訴訟代理人だけが閲覧することができると発令した。
パテントリンケージ制度が施行されて以来、登録された先発医薬品の特許権には無効事由があり、又はジェネリック医薬品が権利侵害していないと主張する事案は総計14件があったが、今後ともその訴訟の攻防を深く注視すべきであろう。