賄賂罪における対価関係の審査基準

2020-11-13

台湾の刑法や「貪汚治罪条例」(腐敗防止法)では、「職務に反する収賄・贈賄」及び「職務に関する収賄・贈賄」という処罰規定が設けられている。それはいわゆる「賄賂罪」であり、汚職に関する事件において最もよくかかわっている刑罰法規である。

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李昕陽

台湾の刑法や「貪汚治罪条例」(腐敗防止法)では、「職務に反する収賄・贈賄」及び「職務に関する収賄・贈賄」という処罰規定が設けられている。それはいわゆる「賄賂罪」であり、汚職に関する事件において最もよくかかわっている刑罰法規である。一方、賄賂罪の規定文言に見られなく、隠れている構成要件と呼ばれる「対価関係」は、個別の事件には存在するか否か、常に検察側と弁護側の攻防の中心になる。

対価関係というのは、他人が公務員の職務行為又は職務上不正の行為に対し、贈賄する意思をもって公務員に金品又は利益を交付し、公務員も主観的に報酬として賄賂を収受する意思がある、すなわち、賄賂を贈呈する者が交付した賄賂や利益と、賄賂を受け取る者が約束した特定の行為との間に、対価又は対等の関係を有することである。しかしながら、社交的儀礼のような特殊な動機を伴わない贈答が日常生活においてよくある正常な社交的行為であり、また贈収賄の意思を有する者が、しばしば交付する金品に名目をつけて隠ぺいし、当該金品は公務員の特定の行為を約束した報酬であると公然と言明しないため、裁判所は如何に両方の対価関係の有無を判定すべきのか、それは研究に値する問題である。

これまで台湾の最高裁判所は、その対価関係有無を認定するにあたって、金品を交付する時の名目(例えば贈答、贈呈品、謝礼金、顧問料又は政治献金等、様々な名目をかこつけ、形を変えて給付すること)を問うべきではなく、その職務の内容、贈賄する者と収受する者との関係、賄賂の種類や価額、贈呈する時期等客観的事情を考慮すべきだと判示している(最高裁84年台上字第1号判例、98年度台上字第5370号判決の趣旨を参照)。また、客観的証拠をもって証明するほか、贈賄する者と収受する者の主観的認識をも考慮し、総合的に判断すべきである(最高裁103年度台上字第4007号判決の趣旨を参照)。

上記の見解は実務界及び学界の共通認識であるものの、実際に適用する際にはまだ多少抽象的であり、より具体的な審査基準が欠けているので、個々の事案において判断の根拠になりかねない。その一方、注目すべきなのは、最近最高裁刑事法廷第三小法廷は連続で参考に値する2件の判決を下し、対価関係に関する審査基準のスケッチを新しく描き下ろした。

最初、今年(2020年)9月24日付け最高裁109年度台上字第2311号判決では、仮に公務員は金品や利益を収受する後、異常の積極的な行動が見られる場合、逆に双方の間に対価関係があることを証明することができると指摘した。すなわち、当判決では、「職務行為の対価関係とは、職務行為の内容や取扱う関係者との関係、金品又は利益の種類や価額、交付する時間等客観的要素を考慮すべく、双方の関係者の主観的認識をも思料すべきである。また、公務員の行っているまたは完成した職務行為の客観的結果(審議又は質問を行う時、異常の表現又は強力の動きがある)を観察し、前述の保護法益(一般的な場合、費用は不要である又は普通の社交的儀礼、サービス。この場合において、普通の状況に反し、公平を失う)を侵害する場合、逆にその前に職権と賄賂との間に対価関係が存在するという主観的認識があることを証明できる。」と判示した。

その続き、今年(2020年)10月13日付け最高裁109年度台上字第4222号判決では、「対価関係」の有無を判断する審査基準が「常軌を逸する」及び「影響力」の2つのメルクマールに分けられると判示した。

「常軌を逸する」とは、その授受行為が一般的な社会通念が許した義理にからんだ付き合い、又は常軌を逸したやり取りに当たるか否かを判定することである。その中に4つの審査基準が含まれており、すなわち、(1)授受の目的:不正な行為が捜査されない又は取り調べられないことを担保するのか、職権行為を助成するのか。(2)授受の関係:授受行為は業務上の審査関係であるのか、それとも普通の親戚や友達の間の非業務関係であるのか。(3)授受の標的の名目や内容、価額又は消費する場所は、常軌を逸するのか。(4)授受の名義:係争の解決待ち又は解決した事項に関係あるのか。(5)収受した者の事後行動:収受した者には、異常の特別な行動をとるのか。裁判所はこのような客観的要素に基づき、社会通念や人間性によって判断すべきである。

また「影響力」とは、以下の要素を併せ考慮すべきである。(1)授受行為は、公務員の職権における決断又は国民の公務員の職務執行に対する信頼を損なうのか。(2)職権行為の内容は、特定の関係事項であるのか。(3)授受の時間は、職権行為の決断と関係性があるのか等客観的事情。最高裁も、個々の事件において、収受した者が実際に影響されたか否か、贈賄した者が希望する行為を実現したか否かは、対価関係の認定に影響を及ぼさないと強調した。

上記2件の判決は、対価関係に対する新しい審査基準を切り開き、将来の汚職事件の弁護の実務に対し深い影響を与えると考えられる。今後最高裁判決では、「常軌を逸する」及び「影響力」の2つのメルクマールの審査要素に対し、その議論を持続的に深めるのかが、注目すべきポイントである。