一、海外資産保全信託とは
海外信託(オフショア・トラスト)とは、委託者の居住地以外の法域又は国において成立された信託である。国際的に言及する海外信託は、通常「オフショア金融センター(Offshore Financial Center)」(例えば、ケイマン諸島、イギリス領ヴァージン諸島、バミューダ諸島、サモア諸島等)において設立された信託である。オフショア金融センターは、外国人が所有する資産に対し完全な法的保障、又は租税回避の優遇を提供するほか、信託の法制上、委託者の特殊な需要に応じ、多様な信託の企画を一層フレキシブルに提供することができる。また、多くのオフショア金融センターは、機密性の保護につき法規制を厳しく設けており、信託された資産が相当の機密性を有する。そのようなメリットのもとで、資産を運用・管理したい人々は、次々とオフショア金融センターで海外資産保全信託(オフショア・アセット・プロテクション・トラスト)を設立することを選択し、自分の海外の資産を信託し、海外の資産を管理するとともに、潜在的な債権者から資産を追及されることを防止する。
二、海外資産保全信託においてよくある条項
委託者が海外資産保全信託を設立する二つの原因は、通常「海外資産の管理」及び「潜在的な債権者から資産を追及されることを避ける」である。よって典型的な海外資産保全信託はよく次のような保護条項を設けている。(1)プロテクター設置条項 (Trust Protector Clause)、(2)反強要条項(Anti-Duress Clause)、(3)脱出条項(Flight Clause)等が挙げられる。
(1)プロテクター設置条項(Trust Protector Clause)
海外資産保全信託のメカニズムにおいて、通常プロテクター(Trust Protector)を設置しており、受託者が委託者の意思に従い財産を管理することを確保する。プロテクターは受託者を解任し、信託地を変更する等、様々な変化に応じて信託条項を調整する権限が与えられる。
(2)反強要条項(Anti-Duress Clause)
海外資産保全信託の実務上、信託された資産を保護するため、通常「反強要条項」を契約する。必要がある時、受託者の権限は自動終了させ、信託された資産を緊急処分し、ほかの受託者に変更することができる。
(3)脱出条項(Flight Clause)
脱出条項は、その信託を他の法的管轄区域へ移転する権限を受託者に付与するものである。その条項の発動条件は、信託地で政治的不安定の事件が発生すること、信託地の個人情報の法規制に変更が生じること、または受託者やプロテクターが辞任し、受託者やプロテクターを変更しなければならない時などである。そのような状況において、受託者がその信託を他の法的管轄区域へ移転することが認められる。
三、おわりに
近時、多くの越境資産をもっている富裕層の方々は、グローバルなファイナンシャルプランニングにより、海外信託をもって資産を管理し、保護する。注意すべき点は、前述の海外資産保全信託によくある条項のほか、海外信託は国境をまたぐ法律や複雑な税務問題にかかわるので、必要がある場合、弁護士や会計士等専門家に依頼した方が良いと考えられる。
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参考資料:
1. 王志誠、海外信託の設立、承認及び法律問題、当代財政第35期、2013年11月、8~26頁。
2. Richard C. Ausness, The Offshore Asset Protection Trust: A Prudent Financial Planning Device or the Last Refuge of a Scoundrel?, 45 Duq. L. Rev. 147 (2007).