台湾の営業秘密法第13条では営業秘密侵害の損害賠償金額を計算する方法を規定されているものの、営業秘密侵害の損害賠償を如何に認定することについて、往々にして高度な専門知識にかかわるので、実際の損害を証明することが容易ではない。実務上では、営業秘密の所有者は如何に立証すべきか、裁判所は立証結果を如何に斟酌するか、最近の台湾高等裁判所109年重労上字第18号民事判決(以下当該判決という)を参考することができる。
一、当該判決の事実
本件控訴人は台湾における有名な保険会社であり、被控訴人はその元社員であり、控訴人の内部営業秘密である投資情報を不正に利用し、2018年に、LINEという通信アプリにおいてグループをつくり、控訴人が投資した株式を専ら思惑売買を行った。その後、控訴人は匿名通報を受けてから前述の事実を発見し、主務官庁である金融監督管理委員会にも新台湾ドル660万元の過料を処した。
そのため、控訴人は本件訴訟を提起し、被控訴人にその損害を賠償するようと請求した。本件の主な争点の一つは、被控訴人が侵害した営業秘密の損害賠償金額を如何に認定するかである。
二、当該判決の見解
以下は本件控訴人が請求した各損害賠償金額についての当該判決の見解を簡潔に整理する。
1. 控訴人が金融監督管理委員会に処罰された部分
控訴人は、被控訴人が犯した係争不法行為のため、金融監督管理委員会に新台湾ドル660万元の過料を処され、経済的損失を被られたと主張した。裁判所は、過料処分通知書に記載された理由及び法的根拠を考慮したうえ、下記の通り判断した。
660万元の中の480万元について、被控訴人が確かに控訴人の内部準則を明確に知っており遵守することを同意したのに、当該準則を故意に違反し、係争不法行為を行い、そのため控訴人が処罰された。したがって、控訴人が被控訴人に480万元を請求することは理由があると判断した。
その他の180万元について、控訴人が事件発生後に関連マスコミの報道から分かり、自分の信用に影響される恐れがあるので、金融監督管理委員会に通報した。金融監督管理委員会は、控訴人の通報メカニズムには重大な過失があると判断し、過料を処した。したがって、それは控訴人の即時に通報しなかった過失であるので、被控訴人に損害賠償責任を負わせることができない。
2. 控訴人の金融検査及び公証の費用について
控訴人は、係争不法行為により金融監督管理委員会に金融検査を行われ、検査費用及び公証費用が発生し、損害を被られたと主張した。裁判所は、金融監督管理委員会は被控訴人による係争不法行為の通報に対し金融検査を行い、当該金融検査の費用も確かに被控訴人の係争不法行為から生じたものであると判断した。公証費用については、被控訴人の不法行為と因果関係があることが認められない。
3. 控訴人は新規保険加入者から保険料を受け取ることができなかった部分の損失
控訴人は、係争不法行為がマスコミに報道されたことにより、控訴人のビジネスの信用性に重大な損害をもたらしたので、控訴人は見込まれた新規保険契約の収入を得ることができなかったと主張した。裁判所は、社会通念上、関連報道の内容は確かに一般人の加入する意向を減らしたので、係争不法行為の経緯やマスコミの2018年間の報道を斟酌し、及び控訴人2018年7月と8月の新規契約の保険料が過去2年と比べて確かに大幅に減少したことと、当時ほかの有名保険会社の新規契約の保険料の増加と比べても遥かに下回ったことから、控訴人が主張する新規加入者から保険料を受け取ることができなかった経済的損失の一部である新台湾ドル1,050万元の財産上の損害は、理由があると判断した。
上記の判決理由から分かるように、裁判所が本件営業秘密侵害の損害賠償金額の認定及び双方の立証についての判断基準は、主に相当因果関係に帰するのである。また、本件被控訴人は、控訴人は損害の発生に過失があると主張したが、裁判所は、控訴人の内部コントロールメカニズムに欠失の有無と、被控訴人による係争不法行為とは相当因果関係がないことを理由として、被控訴人の主張を斥けた。その点も注意していただきたい。