証券取引法第22条の2第1項では、株式公開の会社の取締役、監察役、経理人又は発行済株式数を総額の10%以上保有する株主は、その株式を譲渡する際、申告する義務があると規定している。また、第3項では、申告する義務は、前項の人が他人の名義を利用して保有する場合を含むと定めている。各事案において「他人名義で株式保有」を如何に認定するかについて、近時の最高行政裁判所108年度上字第920号判決を参考できる。
一、案件事実
本件上告人は、台湾の有名ホールディングカンパニー(持株会社)の責任者であり、子会社(以下「A社」という)を100%保有している。上告人の代表者は、台湾の別の有名な金融持株会社(以下「B社」という)の取締役として選任され、A社からB社の持ち株約3千万株を譲渡されたが、上告人は申告しておらず、主務官庁(即ち金融監督管理委員会、以下「金管会」という)に処罰された。
上告人は不服し、手続きに従い、行政訴訟を提起した。原審裁判所に棄却の判決を受け、本件上告を提起した。本件の主な争点は、「他人名義で株式保有」を如何に認定するかとのことである。
二、裁判所の判決
本件の「他人名義で株式保有」の認定について、裁判所の見解を以下の通り整理する。
1.証券取引法施行細則第2条
(1) 株式を直接または間接に他人に提供、もしくは資金を他人に提供し株式を買わせる。
(2) 当該他人が保有する株式に対し、管理や使用、処分する権益を有する。
(3) 当該他人が保有する株式の利益、または損失の全部か一部は、本人に帰す。
2.他人名義を利用し持株する事実の認定は、経済的現実面における観察を重要視し、法的様式やフォーマットを問わない。よって、内部人員と当該他人との間に、この経済的現実の形成につき、会社法もしくはその他の法律関係の枠組み上の理由があったとしても、内部人員はこの法定申告義務を免除することができない。
3、上告人はB社の取締役であり、100%保有する子会社Aの名義をもってB社の株式を保有することになった。上告人は、A社からB社株式を譲渡したことについて申告しておらず、証券取引法第22条の2第3項を違反した。
A社がB社株式を購入した資金は、上告人が直接または間接に提供したため、かつA社が株式を購入することによって得た利益もしくは損失は、上告人会社の純資産を増やすもしくは減らすことにつながるので、これらの利益もしくは損失は、上告人に属する。B社唯一の取締役は、同時に上告人の取締役を務めており、A社の人事から財務、業務まで支配し、意思決定についても、上告人は全面的、実質的な支配力と主導権を有している。これらの事実は、証券取引法第22条の2第3項に合致している。しかし上告人は、その100%保有している子会社A社の名義を利用し、B社の株式を保有し、2016年8月1日にその中の30,738,000株を譲渡する前に、金融監督管理委員会へ通報しておらず、証券取引法第22条の2第3項を違反した。
以上の判決理由から分かるように、他人の名義を利用することに関する認定につき、裁判所は証券取引法施行細則第2条を従うだけではなく、経済的現実面の観察も重要視し、判断する基準にしている。