近頃、米国のニューヨーク南部地区連邦地方裁判所(United States District Court for the Southern District of New York,「S.D.N.Y.」)は、ニューヨークタイムズ紙等のメディアがOpenAIとマイクロソフトに対して提起した著作権訴訟を継続し(proceed with a lawsuit)、実質的な審理手続きの次の段階に入る決定を下した。
ニューヨークタイムズ紙は、マイクロソフトとOpenAIが許諾なしで同社の著作物を使用し、そのAIモデルを訓練したと訴えた。これらの企業がニューヨークタイムズ紙の記事をコピーし、その中から巨額のビジネス利益を儲けたと主張している。OpenAI は、AIモデルを訓練するのに公的資源を使用することは「フェアユース」で法に守られており、米国の競争力にとってきわめて重要であると応じた。
他人の著作物を使用してAIモデルを開発することがフェアユースになるか否かは、情報技術業界および知的財産権法分野のホットイッシューになっている。台湾において、このテーマも論議されているものの、実務上では明確な判断がなされていない。米国で判決が出たケースはThomson Reuters Enter. Ctr. GMBH v. Ross Intel. Inc.があり、参考になる。
このケースにおいて、Thomson Reuters社は、Ross Intelligence社が同社のWestlawデータベースの「見出し(headnotes)」を無断で使用し、人工知能による法律検索ツールを訓練したから、著作権侵害にあたると訴えた。裁判所は、フェアユースの4つの要素を分析した後、Ross Intelligence社のフェアユースに関する抗弁を却下した。(1)使用目的と性質:その使用はビジネス目的に基づいたため被告に不利である。(2)著作物の性質:このケースの見出しの創作性が低いため被告に有利である。(3)使用量:最終商品がユーザー(ターゲット層)にWestlawの内容を直接に示さないため被告に有利である。(4)市場への影響:使用行為が原告の市場における地位に直接に影響するため、被告に不利である。
AI開発中のフェアユースに関する問題は、著作権者であれAI開発者であれ、上掲の4つの要素を総合的に評価し注意しなければならない。AIプロジェクトを企画する初期段階に、完全な法的リスク評価を行い、これらの要素を慎重に考慮することをアドバイスする。
[1] New York Times Co. v. Microsoft Corp., S.D.N.Y., Mar. 26, 2025, Order on Motions to Dismiss
[2]The Times’s complaint: https://nytco-assets.nytimes.com/2023/12/NYT_Complaint_Dec2023.pdf
[3] Open AI’s response: https://openai.com/blog/openai-and-journalism
[4]Thomson Reuters Enter. Ctr. GMBH v. Ross Intel. Inc., No. 1:20-CV-613-SB, 2025 WL 458520 (D. Del. Feb. 11, 2025)